終幕 鎮魂の祈り

 あの時アナタにいったい何があったのか。今のボクにはもう知る由もない。
 けれど、アナタと共に過ごしたあの日々と、アナタのあの不器用な笑顔、憎まれ口を叩く時の呆れたようなあの細めた赤い瞳、そしてあの日語った、叶うことのなかった約束。

 あれがすべて嘘だったとはとても思えない。

「アナタは、ボクたちと過ごして、幸せだったのかな、バンユウ……」


 ボクは、旅人たちと共にフォズ大神官に事の次第を報告して、その後彼らと別れた。
 もう二度と目を開けることのないバンユウの遺体を抱きかかえ、ボクは彼の両親の墓のある丘までやって来ていた。

「ボクは少なくとも、アナタと一緒に修行した日々は幸せだったよ」

 穏やかな風がボクとバンユウの髪の毛を軽く撫でる。
 バンユウの穏やかな笑みは、生からの解放への安堵なのか、それとも、ボクと最後に話せたゆえの安心感なのか、もう知る由もない。

 あの時、もっとアナタの話を聞いていれば、アナタが出ていくのを止めていたら、こんな結末にはならなかったかもしれない。


「――過ぎたことを悔やむなんてボクらしくないよね」


 アナタのあの最期の微笑みは、きっと安らかなものであったんだろう。
 辛く苦しい人生だったかもしれないが、その傍らに少しでもボクがいて、少しでも安らぎになっていたのならいいなと願うばかりだ。


 今はただ祈ろう。
 アナタが穏やかに、心安らかに眠れますようにと。

小説表紙


 《了》


著者:狩生
ラシーンの思いと祈り。